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【コラム】この夏おすすめのミュージカル映画『イン・ザ・ハイツ』感想・考察(一部ネタバレあり)【ワーナー】

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去る2021年7月21日(水)、@uni_cinemaさん主催の試写会にて映画『イン・ザ・ハイツ』を鑑賞しました。

『モアナと伝説の海』『ハミルトン』のリン=マニュエル・ミランが手掛けたミュージカルの実写映画化ということで、これは間違いなく面白いだろうと一切の事前情報を絶って試写会場に向かいました。
映画は非常に素晴らしく、まさにこの夏最高のミュージカル・エンターテインメントに仕上がっていたので、作品の感想・考察を綴っていきたいと思います。

※この記事の一部には2021年7月30日(金)公開の映画『イン・ザ・ハイツ』のネタバレが含まれます。

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映画『イン・ザ・ハイツ』

監督:ジョン・M・チュウ(『クレイジー・リッチ!』)
音楽:リン=マニュエル・ミランダ(『ハミルトン』『モアナと伝説の海』)

キャスト
ウスナビ :アンソニー・ラモス
ベニー  :コーリー・ホーキンズ
ニーナ  :レスリー・グレイス
ヴァネッサ:メリッサ・バレラ
アブエラ :オルガ・メレディス 

 

 

<ネタバレなし>感想

一言でこの作品を表現するならば、「映画館を美しい楽曲で彩る、この夏最高のミュージカル・エンターテインメント」と言える傑作に仕上がっていたと感じました。

まるで数多の宝石が飾られたナイフのような、舞台ではできない映画ならではのスケールと映像表現の美しさ、力強く作品を彩る数々の楽曲、そして個性的なキャラクターたちの夢や希望を描くとともに、移民・人種差別といった社会問題に真っ直ぐに切り込むメッセージ性。

もちろんミュージカル作品としてラテン系のポップな音楽に143分間耳を傾け続けることもできますが、ストーリーもしっかり楽しめ、考えさせられるような、非常に完成度の高いエンターテインメントコンテンツになっていました。

唯一の後悔は作品の情報を事前に全く入れていなかったこと。
この作品にはワシントン・ハイツというコミュニティに属するたくさんの個性的なキャラクターが登場するのですが、その関係性についていきながら英語やらスペイン語やら何か他の言語(?)やらが入り混じるスコアに聞き入るのは少々骨が折れました…。

個人的には以下の映画公式サイトのキャストの項目で主要なキャラクターだけでも頭に入れていることをお勧めします。
実際にはもっともっとたくさんのキャラクターが出てきますが、イントロダクションやストーリーでは若干作品の内容に触れていることもあり、まっさらな状態で見たい方は閲覧にご注意ください。(キャスト欄には公式サイトのメニュー内のリンクから飛べます)

個人的には下のキャストには無いピラグア(かき氷)売りのリン=マニュエル・ミランダが良かったですね。
舞台版では音楽を担当しながら主人公のウスナビを演じていた彼ですが、試写会後のトークによると元々は自身がウスナビ役での実写化を10年程前に考えていたようです。

wwws.warnerbros.co.jp

また、143分間の作品の魅力を8分間にギュッと詰め込んだ冒頭の一曲 "In The Heights" が聞ける本編映像の一部がワーナー公式からYouTubeにアップロードされているので、観ようかどうか迷っている方には一見の価値ありです。
個人的には、既に観ると決めている方には初見の感動を劇場の大きなスクリーンと素晴らしい音響で感じでいただきたいので、鑑賞後に復習としてご覧になることをお勧めします。

※この先、2021年7月30日(金)公開の映画『イン・ザ・ハイツ』のネタバレが含まれます。

www.youtube.com

 

<以下ネタバレあり>ワシントン・ハイツの人々

 

ウスナビの語りから始まる物語は、シームレスに一曲目の楽曲 "In The Heights" に繋がります。
鍵をかける音や水を撒く音とミュージックが心地よく混ざり合い、映画の世界に沈み込んでいく感覚はなんとも表現しがたいものでした。

ウスナビの韻を踏んだ歌と共に次々に現れるワシントン・ハイツの住人達。
主なキャラクターを歌と共に紹介してくれるのですが、言語が混ざっていることもあり各キャラクターの関係性を理解しながら字幕を追うのがやっとという感じになってしまい、正直なかなか曲にノリ遅れた部分もありました。(せっかく色々と韻を踏んでいるのに…)
しかしそれはほんの一部。7分を超えるこの楽曲で「これは凄いものが始まったぞ」という感覚を強く抱かせる、作品を代表する印象的な一曲となっています。
後半の交差点で大勢が揃って踊る部分なんて圧巻ですよね。舞台でもあの人数は難しいでしょうし、映画だからこそ生まれる迫力だったと感じました。

 

ウスナビの故郷

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本作のメインキャラクター達は皆 "小さな夢" を持つ若者たちとなっていますが、ウスナビの場合はかつて両親と過ごした故郷(ホーム)である祖国ドミニカのビーチサイドでバーを経営すること
資金集めのためにいとこのソニーとハイツで小さなコンビニを切り盛りしているところに、ハリケーンの影響により格安でバーを買えるという話が飛び込んできます。
ウスナビは二つ返事でバーを購入し、育ての母であるアブエラに祖国へ帰る話をすると「よかった」と抱き合い、いとこのソニーにも話すことにします。

しかし祖国を幼くして離れたソニーにとっての故郷はこのハイツ。
彼はここニューヨークで大学へ行くことを目指していました。
ウスナビはソニーの父親にドミニカ行きの話をしますが、そこで判明するのはソニーが「不法移民」であるという事実。
大学に行くことすらままならないという事実をソニー自身もニーナと参加した移民の抗議活動で知ることになります。

 

コロナ禍の前、トランプ政権下においてアメリカ全体で大きな問題となっていた移民問題
それに真っ向から切り込むストーリーテリングは真っ直ぐな現代社会への課題提起であり、これほどまでに素晴らしいエンターテインメントの中でそれを描くことで人々に課題意識を持たせる素晴らしい作品だと感じました。

また、日本で過ごしていると移民問題は他人事」のように感じてしまうこともありますが、日本にも出稼ぎに来ている外国人が多くいることは事実。
彼らがどのような生活を送り、どのような苦しみを抱いているか、私自身深く考えたことがなかったという事実を突きつけられました。
コンビニで働く中国人のおばさんは必死で日本語を勉強したんだろうか、とか、島国でありある種鎖国的な日本で外国人が生活するとはどいうことなんだろう、とか。
今まで目を向けていなかったような問題がこの国にもあるのではないかということを考えさせられました。

 

さらに、ウスナビにはもう一つの "小さな夢" がありました。
ハイツの人気者、ヴァネッサに恋をしていたのです。
なかなか彼女に声を掛けられないウスナビでしたが、ソニーの手助けもあり週末のデートを約束することに成功します。
しかしデート中にハイツは停電し離れ離れになり…。

 

故郷での夢とニューヨークのヴァネッサとの恋の間で揺れ動くウスナビの心境と、それを描く映像と音楽。夢を追いながらも恋を諦めきれない甘酸っぱさを感じながら、「故郷(ホーム)とは何か」を考えさせられました。

 

ヴァネッサの夢

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美容院でネイリストとして働くヴァネッサの "小さな夢" は、ダウンタウンでアーティストとして成功すること。
線路脇というお世辞にも良い立地とは言えない家に住む彼女は、ダウンタウンに部屋を借りようとしますが、金銭的な事情で断られてしまいます。
創作のインスピレーションも浮かばなくなり、失意の彼女に上手く声を掛けられないウスナビでしたが、ソニーの助けもあり週末にデートに行くことに。

クラブでのデートではお互いを嫉妬させるために敢えて他の人々と踊り、その後近づきながらもふと離れたタイミングでハイツは停電し二人は離れ離れに。
やがて再開する二人ですが、怒った彼女は一人で自宅に帰ることにします。

その途中で出会ったウォールペインター(名前失念。マイケル?)にインスピレーションを得た彼女は、明日祖国へと発つウスナビのお店でソニー、ペインターと夜通し創作活動を行い、出発当日のウスナビに自分の作品と壁一面の祖国のビーチの絵を見せます。

それを見たウスナビは「ハイツの人々こそが故郷(ホーム)」だと考えなおし、ハイツに留まることを決断します。

 

ヴァネッサを見て感じたのは、夢を追いかけることの難しさ。
ゴールまでの道のりには努力しても乗り越えられないようなたくさんの障壁があるものの、視野を広く持てば実は意外なところに抜け道があったりするのかなぁと感じました。

 

ニーナの望み

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ワシントン・ハイツ一番の秀才であるニーナの "小さな夢" は、ハイツに戻ること。
ハイツで勉学に勤しんだ彼女は、ハイツで初めての大学進学者としてカリフォルニアの名門スタンフォード大学に進学します。
しかしそこで目にしたのは人種による差別。大学では常に孤独感に苛まれ、自分が何をしたいのか、なぜそんな孤独を耐えなければならないのかがわからなくなってしまいます。
ワシントン・ハイツの人々、そして実の父親の "夢" を背負わされていると感じたニーナは、父親に嘘をつき大学を辞めるためにハイツに帰ってきました。

ニーナの噓に気付いた父は、ベニーが働く自分の交通整備の店を売り払って学費にあてることにします。
そんな中で停電が起こり、皆の育ての母親であるアブエラが猛暑による心臓発作で息を引き取ります。

ニーナはアブエラの口癖だった「忍耐と信仰」の言葉を思い出し、不当な扱いを受ける移民・人種たちの為に活動するという目標を見つけ、スタンフォードに戻ることを決めます。

 

正直コミュニティや親の期待というものから遠いところにいる私はなかなかニーナに感情移入することが難しかったのですが、自分自身が信じる目標を持ちそれに向かって進むことが大切なんだということを改めて感じました。

 

ベニーの恋

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交通整備員として働くウスナビの友人ベニーの "小さな夢" は、元彼女であるニーナとヨリを戻すこと。

人種差別を理由にハイツに戻ったニーナに戸惑うも、久々の再会を楽しみます。
ニーナとその父親である上司が大学の話で険悪になった後も、クラブで彼女に声を掛けるなど心配を隠せないベニー。

そこで突如停電が起こり町は大混乱。
「たとえ明日職場が売られても、今日までは俺の仕事だ」と強い責任感をもって交通整備に取り組むベニー。

停電から30日後、大学に戻る決心をしたニーナとは西海岸と東海岸遠距離恋愛という形で再び愛を育むことになります。

 

ベニーもウスナビと仲が良く、本編では二曲目に流れる "Benny's Dispatch" もアップテンポで素晴らしい楽曲です。
仕事にも積極的に取り組む真面目な面も見せながら、ソニーと一緒にウスナビをからかったりとキャラクターとしても魅力的で、ニーナには傍にいて欲しいけど彼女の夢を応援する姿に心を打たれました。

 

96,000

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本作で "In The Heights" と同じくらい好きな楽曲 "96,000" についても少し。
ウスナビの店で売った宝くじが96,000ドル(=約1,000万円)の当選額になったと連絡を受け、ソニーやウスナビ達が盛り上がるという中盤の見せ場のシークエンスで流れる楽曲です。

 

プールに行く直前に連絡を受けた皆は道すがら歌を歌いながら、コミックやアニメーションのようなエフェクトと共に誰が大金を受け取るのかと盛り上がります。
ここの表現がものすごくツボでした。「オビ=ワン・ケノービ」と言いながらチョークで描いたようなライトセイバーを握ったり、映画ならではの映像表現が素晴らしい。

さらに曲の後半では、到着したプールにはハイツの人たちが沢山いて、もしも自分が当選していたら、と自分の夢を語っていきます。
プールならではの水を使ったパフォーマンスや、上記の写真のような映画ならではの迫力ある構図の画力たるや。

ストーリー上においても鍵になってくる "96,000" も是非注目してほしいポイントです。

 

この他にも個性的なキャラクターや楽曲が盛り沢山の映画『イン・ザ・ハイツ』は2021年7月30日(金)より公開です。
是非劇場の素晴らしい映像・音響設備でこの夏一番のミュージカル・エンターテインメントをお楽しみください。